ストーリー（ネタバレなし）

舞台は信州の山間。主人公の久喜雄司は、母の伸子、妹の夕里子、祖父の保と静かに暮らしている。ある朝、先祖代々の墓石が何者かに破壊され、大伯父・久喜貞市の名だけが削り取られているのが見つかる。なぜ「貞市」だけが消されるのか——家族の胸に、小さな棘が刺さる。

同じ頃、太平洋戦争末期に戦死したとされる貞市の従軍日記が南方から届く。封を切れば、飢餓と恐怖、そして「火喰鳥を、喰う」という血のにじむ言葉。ページをめくるたび、家の空気が冷え、誰かの囁きが耳たぶをかすめる。——「お前の死は、私の生」。

日記を読み進めるうちに、久喜家では説明のつかない出来事が連鎖する。祖父の奇妙な失踪、記した覚えのない走り書き、時間の継ぎ目がほつれたような既視感。現実は、文字に押し広げられる薄い膜に過ぎないのかもしれない。やがて雄司は気づく。「読む」ことそのものが、世界の書き換えを招くのだと。

「火喰鳥」は鳥の名であり、同時に食う／食われるという人間の本能を照らす暗喩でもある。飢餓の前線で刻まれた執念は、時を越えて家族の食卓に座り、湯気の向こうからこちらを見ている。生き延びるために、何を差し出すのか。久喜家の皿は、少しずつ、別の世界の影で満たされていく。

物語の進行（時系列ダイジェスト）

• 異変の兆し：墓石破壊。貞市の名だけが削られる。
• 日記の到着：戦時の飢餓と「火喰鳥」を記した手記が届く。
• 侵食の始まり：囁き声、不可解な追記、祖父の失踪。
• 現実の改変：“読んだはず”の出来事と“起きたはず”の記憶が入れ替わる。
• 選択の局面：家族を守るか、世界の綻びを繕うか。誰かの「生」が誰かの「死」を求めはじめる。

キーワードで読む物語

• 手記：文字が現実を上書きする“装置”。読むたびに境界が薄くなる。
• 火喰鳥：人肉食の暗喩、生への執着の象徴。飢餓と倫理の衝突点。
• パラレル：「こちら」と「あちら」が相互に侵食し、どちらかが食い尽くされる恐怖。
• 家族：守るための選択が、別の誰かの喪失と結びつく残酷な算術。

中盤以降の見どころ（結末の核心ネタバレなし）

物語が進むほど、日記に残された空白が効いてくる。書かれていない行間が、現代の久喜家で埋められていくからだ。誰が、いつ、何を“読んだ”のか。読むという行為は、ただの受け身ではない。選ぶこと、差し出すこと、そして生き延びることに直結していく。

クライマックス直前、雄司は問い詰められる。——「お前はどちらの世界の住人だ？」。その答えは、ページの外にいる私たち自身へも返ってくる。

主演は水上恒司｜映画単独初主演で挑む難役

主人公・久喜雄司を演じるのは、水上恒司さん。本作が映画単独初主演ということで、キャリアの大きな転機となります。
雄司は、戦死した大伯父の手記をきっかけに怪異へと巻き込まれていく青年。
現実と過去の境界が崩れていく中で、恐怖に怯えながらも家族を守ろうとする複雑な心理が描かれます。

水上さんはこれまで数々のドラマや舞台で経験を積み重ねてきましたが、
今回は「生きたいと願う執念」を体現する難役。彼の演技が作品の説得力を大きく左右するはずです。

ヒロインは乃木坂46出身・山下美月

雄司の妹・久喜夕里子を演じるのは、乃木坂46出身の山下美月さん。アイドル活動と並行して数多くのドラマや映画に出演し、
女優としての実力も評価されてきました。

夕里子は、兄と共に怪異に立ち向かうヒロイン。物語を通じて、恐怖や不安の中で精神的に成長していく姿が描かれます。
ただ守られるだけではなく、家族の一員として運命に立ち向かう姿は、観客に強い共感を呼ぶことでしょう。

Snow Man・宮舘涼太が演じる“友人”の存在感

久喜雄司の親友・北斗総一郎を演じるのは、Snow Manの宮舘涼太さん。
普段はアイドルグループで華やかな舞台に立つ彼ですが、本作では冷静沈着な青年という新たな一面を見せます。

北斗は、怪異に巻き込まれる雄司を支える存在でありながら、同時に物語の“真相”に近づく役割も担います。
宮舘さんの落ち着いた演技が、観客にとって安心の軸となりそうです。

その他の注目キャスト

本作は主演陣だけでなく、脇を固める俳優たちも実力派ぞろいです。以下に主要キャラクターを紹介します。

• 森田望智（与沢一香）：事件や怪異に関わる謎の女性。彼女の行動が物語の展開に深く関わります。
• 豊田裕大（瀧田亮）：雄司の同級生。物語の渦中で、若者ならではの葛藤を背負う存在。
• 小野塚勇人（久喜貞市・青年期）：戦死した大伯父の青年期を演じる。過酷な戦場体験が、後の怪異の根源となる。
• 吉澤健（久喜保）：雄司の祖父。家族を守ろうとするが、怪異の波に呑み込まれていく。
• 平田敦子（藤村ゆき）：久喜家の相談役的存在。怪異に巻き込まれる家族を支える。
• カトウシンスケ（玄田誠）：久喜家に接近する謎の人物。事件の鍵を握る可能性がある。
• 麻生祐未（久喜伸子）：雄司と夕里子の母。家族の異変に心を痛めつつ、必死に寄り添う。

こうした人物たちが絡み合うことで、「家族」「生きる執念」「死者の記録」といったテーマが浮かび上がります。

まとめ

水上恒司さんをはじめ、山下美月さん、宮舘涼太さんら話題性と実力を兼ね備えたキャストが集結した映画『火喰鳥を、喰う』。
それぞれのキャラクターは単なる登場人物ではなく、物語のテーマを映す“鏡”として描かれています。

公開日である2025年10月3日が近づくにつれて、役者たちの演技にどんな熱量が宿るのか——。
事前にキャストと役柄を把握しておけば、映画の鑑賞体験はさらに奥深いものになるはずです。